[解説]
おしゃれ上級者向けのエッジィなブランドです。ファッション界では珍しい男2人、女2人の4人組ユニット。2001年にランウェイに正式デビューしたばかりですが、デビューからわずか3年程度で、ニューヨークファッション界の超新星という評価を受けています。
ADi(イスラエル出身)、ANGE(タジキスタン)、K.A.I.(ドイツ)、GABi(レバノン)の4人はニューヨークのチャイナタウンにあるスタジオで共同生活を続けています。出身地だけをとっても、欧州系、中東系、中央アジア系と、バリエーションに富んでいます。さらに性別も経験も、技能も異なるわけですから、作品が従来のデザイナーの既成概念から大きく外れるのは当たり前かもしれません。
ADiとANGEの女性2人はもともとスタイリスト。GABiは3人と出会ったころ、既にデザイナーとしての経験があったといいます。4人はデザインのほか、スタイリング、プレス、写真撮影、メークアップなどをほとんど自分たちでこなします。
寝食を共にする4人は様々な面でファッション界の常識をぶち壊しています。たとえば、サイズ。S、M、Lという既成の枠組みにとらわれず、4人の実際の寸法に合わせてサイズを用意しています。4人はデザイナーであると同時に、最初のモデル、消費者でもあります。自分たちの体型で出来栄えが確認できるもの以外は作らないとでもいう頑固さには一種の職人気質を感じます。
ゴールドやシルバーを多用する色使いや、常識を飛び越えた建築美などから、「宇宙的」という批評が聞かれます。サウジアラビアの大金持ちが一族のための服を注文したというエピソードもうなずけます。
確かに宇宙服っぽいデザインもありますが、必ずしも現実性を無視した「ショーのためのデザイナー」ではありません。実際、2004年には「バーニーズ・ニューヨーク」の一押しブランドになっています。
ニューヨークファッションの風雲児となった彼らの最も有名なアイテムの一つが「サークルラップ・バッグ(circlewrap bag)」。肩を通して脇の下でホールドする、真ん丸のこのバッグは米国のテレビドラマ「セックス&ザ・シティ(Sex and the City)」で使われて注目を浴びました。今では「アズ・フォー」のシグネチャー(=代表作)となっています。
「アズ・フォー」のカッティングは流麗で、脇や胸元に大胆にシャープな切り口を開けて見せます。それでいて丸みを醸し出すカッティングには「コム・デ・ギャルソン」に通じるものを感じます。彼らはインタビューに答えて「大半はフリーハンドでカットする」と言っています。その彫刻的なカッティングの見事さから、早くも三宅一生氏、川久保玲氏らとの共通点を論じる批評も登場しています。
2004年春夏ではゴールドの洪水で観衆を溺れさせました。襟なし、前開きのゆったりした上下セットや、何重にも優美なゴールドの曲線を重ね合わせたドレスを発表。花弁のようにもティアドロップのようにも見える大ぶりのモチーフを何枚も配したドレスはさながら舞台衣装のようでした。ピカピカ、キラキラは「アズ・フォー」の得意技です。
ところが、一転、2004―2005年秋冬では黒を基調に。しかも子供服が登場したのに、そのテイストは大人と同じく前衛的。「子供服で手堅く儲ける」なんて発想は微塵も感じられない潔さでした。光沢のある素材に意識的にドレープを波打たせたブラウス、ファーの塊を貼り付けたようなジャケットなど、そのフォルムの多様性は「ファッションとは何か」を改めて考えさせてくれます。
2005年春夏は一気にアイテムが広がり、チューブトップ、ワンショルダー・タンクトップなど、普通の人でも着やすいラインがドッと増えました。しかも白系が一気にメーンカラーに。ホットパンツやバミューダショーツまで登場しました。
それでいて、ドレスやワンピースは、スペインのサグラダ・ファミリア寺院で知られる建築家、アントニオ・ガウディの建築を思わせるモザイク的な構成美をたたえていました。月並みな表現ですが、「無限の才能」を感じずにいられません。日本ではまだ先物買いとなるので、今から数年間は、持っていれば自慢できるブランドであり続けるでしょう。
●ブランドデータ
[本国] 米国(ニューヨーク)
[経営・日本での展開]
デザイナー4人が集団で経営している。日本法人はない。セレクトショップでの展開が中心。
[歴史]
まったく別々の生い立ちを持つ4人がニューヨークで出会った。まず、ADi、ANGEの女性2人がやって来て、続いてK.A.I.、最後にGABiの各氏がニューヨークへ。彼らはお互いを呼ぶのに、姓は使わない。
最初のファッションショーは1999年。チャイナタウンで買った電動の安い人形に服を着せた。高額のモデルを雇う金がなかったからだったが、その斬新な演出が話題を呼んだ。
歌手で女優のビヨークが2000年のカンヌ映画祭作品賞と主演女優賞を獲得した主演映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のニューヨークでのプレミア上映の際に彼らの服を着て、彼らのバッグを持って現れた。ビヨークは今でも彼らのファンだという。
彼らの作品は当初、パリの有名セレクトショップ「コレット」に置かれ、今ではニューヨークのセレクトショップ「セブン」「バーニーズ・ニューヨーク」などが扱っている。公式サイトによれば、日本は取扱店舗が米国に次いで多い国で、東京のほかに京都、名古屋、高松、鹿児島でも販売されている。
「アンチファッション」とでも呼べそうな、興味深い発言が多い。「コレクションは作らない」と宣言。発表する作品はすべて「現在進行中のプロジェクトであるに過ぎない」と言う。
人気の出たデザイナーは高級住宅に引っ越すものだが、彼らはチャイナタウンの喧噪を離れようとはしない。銀色に塗り固められたビルでの共同生活を今も続けている。
[キーワード] 前衛的、ゴールド、宇宙感覚、4人組
[魅力、特徴] 日本ではまだ一般的ではないから、長く優越感が味わえそう。奇抜なデザインばかりではなく、カッティングに切れ味のあるドレス、ワンピースがあります。あえてデニムに合わせる手も。目立ちたいときには効果抜群。
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